未来のために 〜60回目の運動会〜

「ただいまより、第60回運動会を始めます。」

 教頭先生の開会の言葉の中の『60回』という言葉にD小の運動会の歴史の古さを感じた。よく考えてみると、D小の運動会は、戦争が終わった2年後に初めて開催されたことになる。きっとその当時の人々は、戦争の傷跡から未来に向かって力強く立ち上がろうとしていたんだろうなあ。そんなことを考えると、なんだか感慨深くなった。こうして、運動会が開催できる平和のありがたく思いながら、この9月は、D小にとっては60回の運動会、日本にとっては小泉首相の退陣から初の戦後生まれの安倍総理大臣の誕生で、歴史の節目を感じた。

 そして、1年生にとっての初めての運動会が始まった。

 2年生といっしょに音楽に合わせて歩いた入場行進。練習のときは、先生方にいろいろ注意されながら行進したが、本番は子どもたちだけの入場。曲がるところの印がないにもかかわらず、見事に練習どおりにできた。

 午前中しか出番がない1年生は人気スター並みの忙しさだった。退場するとすぐに60m走の準備をしなければならなかった。第一の課題は、レース順に並ぶこと。今年の1年生は、並ぶのは上手なはずだったが、この60m走では、今まで一回で並べたことはなかった。前日の練習まで叱られ続けていた男子。この日は見事に並べた。これで本気でやれば何でもできる1年生であることが証明された。第2の課題。転ばないで線と線の間をまっすぐに走ること。これも練習の時よりうまくできた子が多かった。

 子どもたちへの期待を膨らませながら、すぐに表現『アララのじゅもん』の準備へ。入場門へ並ぶと「先生、とれちゃった。」と右手の銀色のテープが取れてしまった子から次から次へと声をかけられる。子どもたちが予想通りの行動を取ったことに苦笑いしながら、用意していたホッチキスで次から次へと手袋にテープを止めなおした。子どもたちが入場して座るまでハラハラドキドキは続いた。しかし、準備ができた合図の黄色い旗を揚げ、音楽が始まると子どもたちの動きは変わった。観客の人たちに見せることを意識して、子どもたちはみんなそろって、動作も大きく踊っていた。演技もクライマックスを迎え、「ここは子どもたちが退場するので、あけてください。」E先生の声がした。子どもたちの行列は、報道陣の人垣を縫うように退場門に吸い込まれていった。『アララのじゅもん』は、大成功だった。

 2種目終わってホッと一息。子どもたちは水筒の中の飲み物を飲み、玉入れの準備へ・・・。玉入れの練習では、赤城団の優勢だったが、本番は榛名団の優勝。赤城団と妙義団は同点の2位で、3位はなし。本当によい結果になってよかった。

 そして、1年生最後の種目、『団対抗リレー』。この種目。運動会前日まで、体調を崩す子が多くて、練習に選手がそろったことがなかった。しかし、本番は全員そろってレースができ、大きなハプニングもなく、無事終えることができた。最後までバトンが渡ったことだけに満足してしまい、結果は忘れてしまった。

 「みんなも5、6年生になったらやるんだから、よく見ていなさい。」午前の部の最後の種目は伝統の舞。暑い中、目の前で力強く踊る5、6年生の姿を1年生に見せることができてよかった。「これが君たちの目標だよ。」と言い聞かせながら、小学校の最初の運動会は終わった。

 すべての力を発揮し満足そうな顔。顔。顔。すぐに運動会の感想を書き、書けた子から学級通信に60m走の着札をはり、参加賞のなわとびを渡した。

・はくしゅしてもらってよかったです。あしたもやりたいです。(T)
・きょうのうんどうかいで『アララのじゅもん』がいつもよりじょうずにできて、うれしかったです。(S)
・おかあさんとおばあちゃんが「おどりがじょうず。」といいました。うれしかったです。こんどはかけっこで一ばんになるようにがんばります。はじめてのうんどうかい、たのしかったです。(M)
・『アララのじゅもん』がいつもよりがんばっていっぱいできました。(R)
・きょうはじめてのうんどうかいでゆうしょうしたかとおもったら、ゆうしょうできなかった。でも2いになりました。957てんでした。(M)
・『アララのじゅもん』をがんばっていたので、とってもたいへんでした。ほんばんだったからきんちょうしました。(A)
・きょう、はじめてのうんどうかいでした。いっぱいがんばってれんしゅうをしたから、だんすがじょうずにならべました。(K)
・きょうは、うんどうかいとてもきんちょうしたけれど、いいことが一つありました。いつもはきあいがなくて、ときょうそうで五いでした。なのにほんばんは三いでした。よかったです。あと、みなさん、あついなかおうえんありがとうございました。とてもたのしかったです。(A)
・きょうのうんどうかい、がんばってやりました。3がっきもがんばりたいな。(R)
・きょう『アララのじゅもん』がそろえたのでよかったとおもいました。60メートルそうもまっすぐはしれたのでよかったとおもいます。(K)
・うんどうか、たのしかったです。でもたまいれは2かいまけちゃいました。(A)

 午後になり、子どもたちが帰ってしまった運動会。担任としては気が抜けてしまったけれど、各団の得点争いは激しくなっていった。すべての遊競技が終わった時点では、榛名団がリード。それを追う妙義団。そして、赤城団は遥か後ろにいた。しかし、大きな得点がもらえる綱引きでは、赤城団と妙義団が同点優勝。リレーでは、1種目が妙義団で、ほとんどの種目で赤城団の優勝。これで、最終結果がおもしろくなった。

 すべての戦いが終わった閉会式の結果発表。優勝は妙義団。久しぶりの優勝で大喜び。第2位は赤城団。そして、残念ながら逆転されてしまった榛名団は第3位。それぞれの団にとってこの結果発表は悲喜交々。『かがやいて、勝っても負けても全力で』。このスローガンの通り、最後に行進して退場する各団の子どもたちの顔は力を出し切った満足感で満ちあふれ、一人一人が輝いていた。(涙・涙・涙・・・)

 こうして、60回目のD小の運動会は大成功に終わった。子どもたちの心の中にも大切な宝物が残ったことだろう。休みが明け、子どもたちはまた来年に向かって歩き出した。D小の運動会も未来に向かって続いていくことだろう。そして、日本の新内閣も発足した。安倍総理には、ずっと運動会が続けられる平和な世界を作ることに力を尽くしていってもらいたい。この子どもたちの未来のために・・・・・。

美しい国へ (文春新書)

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 保護者のみなさんへ。
 わたしにとって、毎年運動会の日は、子どもたちのがんばる姿を見ながら、いろいろなことへ感謝する日となります。平和であることへ。自分が学校で働いていられることへ。子どもたちへ。そして、保護者の方々へ。
陰ながら温かく支えていただき、本当にありがとうございました。