3・3(みみ)をすませば

「最後にもう一度通してやってみましょう。」

「あれっ、ちょうちょがとんでるよ。」「あっ、ほんとだあ。」

 3月3日(金)。一週間の最後の6年生を送る会の通し練習。それまでにT先生にいろいろな注意を受け、子どもたちは、『D小の1年』の演技を始めました。

 『ドレミの歌』が始まると、美しく伸び伸びとした声が体育館いっぱいに響きました。その声を聴いたとたん、わたしは鳥肌が立つほど感動しました。もちろん合奏はパーフェクト。一人一人の言葉やクラスごとの言葉も自信に満ちあふれていました。

 盛り上がりのある『夕やけ小やけ』の2番。T先生のピアノの最後の音と共に子どもたちの歌声もきらめいていました。そして、手話で歌った最後の『タンポポ』。

♪どんな花よりたんぽぽの花をあなたにおくりましょう〜♪

心のこもったそのやさしい声に感動し、目頭が熱くなりました。

 3月3日。耳の日の最後の演奏は、オリンピックで言えばメダルに届く最高の演技でした。学年のどの先生も、ここまで上手になった子どもたちに心から拍手をおくりました。

 金メダルは、3月7日の本番にあげたいので、わたしは、
「今日、みんなの演奏は、銅メダルに手が届いたと思います。すばらしい演奏でしたね。金メダルを取るためには、ステージの上に行ったら音をさせないこと、立っているときに絶対に動かないこと、すわっているときは休んでいないで姿勢をよくすることを守ってください。今日は、3月3日、ひな祭りです。体育館のひなだんに上がったらひな人形のようになって下さい。来週の練習で仕上げていきましょう。」
と話しました。

 休み明けの月曜日。子どもたちの演技に3月3日ほどの切れ味がなくなっていました。2日練習をしなかったので、それは仕方のないことです。立ったりすわったりする姿勢や目で見る位置をなどの指導を受け、最後の調整が終わりました。

 6年生を送る会の当日は、ありがたいことに1時間目に1,2年の合同で体育館を使用できるように予定を組んでくれたので、お互いの出し物を見せ合うことができました。本番前の練習は、演奏の合間の言葉に力がなく、最後の最後に言葉だけを練習し、終わりになりました。

 本番まで1時間。教室にもどった子どもたちは、落ち着きがなく、興奮状態でした。きちんと話を聞くことができず、すぐに大声を上げてしまいます。それだけみんな緊張していたのだと思います。
「もうちょっと、落ち着きましょう。ふだんの気持ちでやればいいんだよ。」
わたしが言うと、子どもたちの興奮も少しずつ収まっていきました。一ヶ月以上これほどたくさんの曲に挑戦し、一生懸命練習をし、完璧近い状態までに仕上げてきた子どもたち。いっしょに練習をしてきた担任としてわたしも大きな期待をしていたのも確かですが、子どもたちも必死にその期待に応えようとしてくれていたのだと思います。

 刻一刻と近づく時間。体育館に集まるD小の子どもたち。保護者の方たち。そして、6年生の入場。プログラム1番。2年生の出し物が始まりました。500人以上もの人の前に立った子どもたちの表情からは、緊張感が伝わってきました。会場は物音一つしない状態で静まり返り、全員の目がステージの上の2年生に集中しました。

♪からすといっしょに帰りましょう〜♪

 2年生の出し物の中で一番盛り上がりのある部分の歌声が、硬い表情になっていました。「最後の『たんぽぽ』、がんばれ〜。」
わたしは、心の中で応援をしました。

 中学校でもきれいな心の花をたくさんさかせて下さい

 必死になって子どもたちが演奏した10分間はあっという間に終わりました。緊張のためいつもののびのびとしたところは見せられなかったけれど、子どもたちの心は6年生には伝わっていたと思います。

 見ていてくれたお母さんや他の学年の先生からは、こんな感想をいただきました。

「6年生をおくる会、見に行きました。とてもじょうずだったね。『たんぽぽ』の手話とてもじょうずでしたね。」

「6年生を送る会、すごくすてきでした。先生の歌も聞けたし、D小の団結力の強さにおどろきました。」

「2年生の演奏はとてもまとまっていてよかったですよ。1番に演奏をするのはとてもむずかしいのに、あんなに上手にできたのは、相当練習してきたのだと思いました。」

そして、授業参観に来られなかったKさん親子の感想です。
◆楽しかったです。
◇6年生を送る会を見学させていただきました。時間の都合がつかず、たんぽぽの歌だけしか見られませんでしたが、とても感動しました。手話を知らないので、子供たちが6年生一人一人にたんぽぽの種をおくっているように思えて、心のこもった歌になっていました。このまますなおな心を持って、成長してほしいです。(母より)

 たくさんの人に大きな拍手をいただき、見ていた人たちから温かい言葉をいただき、この日までいっしょうけんめい練習してきて本当によかったと思います。そして、他の学年の演奏もみんな一生懸命で心がこもっていたと思います。演奏を聴く態度にもそれが表れていて、今年の6年生を送る会もすばらしいものになったと思います。

 最後の大きな行事『6年生を送る会』が終わり、2年生との生活もあと残り少なくなってしまい、とてもさびしく感じます。でも、耳をすませば、いつでも聴こえてきます。3月3日の2年生の金メダルの歌声が……。

ドレミファソラシドソド!