身の回りの危険を想定しておく

 今週の火曜日に、大地震を想定した避難訓練を行いました。訓練をするにあたって、クラスで、「日本は世界有数の地震多発国で、わたしたちの身の回りでいつ地震が起こるかわかりません。群馬県は今までほとんど大地震は起きていなくて、安全な場所と考えがちですが、そういうところこそ、地震のエネルギーがためられていて、それが耐え切れなくなったときに大地震が発生する可能性が高いのです。だから、こういう避難訓練のときに真剣に練習して、もし本当に大地震が起こったときに役立ててください。もしいいかげんな気持ちで今日の訓練をしたとしたら、大地震が起きたときには、どうしていいか分からなくて、けがをしたり、命を失ったりするかもしれません。」という内容の話をしました。
 そして、避難訓練が実施されました。ほとんどの子どもたちは、どんなことがあっても大声を出したりしてパニック状態にならないことや出入口は開放しておくことや校舎から外に出るときには上からの落下物がないか確認することなどの約束を守り、一生懸命訓練に取り組んでいました。そして、学校の登下校や外出時など、一人のときでも地震が起こる可能性もあることも伝えた上で、塀や建物から離れることや地割れがないか確認しながら歩くことなど、いくつか注意することも話しておきました。ご家庭でも話題に出して、大地震に対する子どもたちの心構えを作っておいてください。
 大地震が起こるかもしれないことで少しショックを受けた子もいたようですが、わたしは、最近身の回りの危険に関してもっとショックを受けたことがあるので、保護者の方にお知らせしておきます。
 今週の月曜日、わたしは、『夜回り先生』こと水谷修先生の講演会に参加しました。現在は退職をしていますが、以前は定時制高校で授業を行った後、夜の街を一人で回る水谷先生は、薬物中毒の子どもたちを救うために医師にも勝る知識を会得し、学校のない日には講演のために全国を飛び回っていました。教育が教室の中だけで終わらないことを、寡黙な水谷先生は自らの行動でのみ示しています。その活動には終わりがなく、最近ではリストカットや処方薬の過剰摂取、自殺願望の子どもたちが急増し、インターネットによる相談は一晩に100件以上にもなっているそうです。夜回り後は、朝まで電話やメールで相談にのり、当日も朝30分だけソファーで仮眠をとっただけだったそうです。
 その水谷先生の講演の中に、わたしたちの住んでいる地域は、全国的に見ても、薬物を使用している中高生が多いというのです。実際に「先輩や友達で薬物を使っているという噂を聞いたことがある人?」と質問をしたところ、講演を聞きに来ていた中高生で手を挙げた人が多かったことに先生も驚いていました。薬物はテレビの中や都会での遠い世界のことだと思っていたわたしにとってもたいへん衝撃的なことでした。これから成長する子どもたちも薬物やその背後にいる暴力団とのかかわりへの危険にさらされていることを思うとたいへん心配になりました。
 他の非行は、二十歳を過ぎて、もう一度一から普通に生き直そうと思えば、いくらでもできます。しかし、薬物依存症の場合、そうはいきません。回復はあるけれど治癒はないのです。愛や罰では治せず、1回1回の乱用が、脳や神経系を破壊してしまうから、なんとしても予防しなくてはならないこと。一度やってしまったら、早期で対応するしかないこと。だから、水谷先生は、そんな子どもたちをなんとかして救いたいと強く訴えていました。
 では、どうしたら予防できるか。水谷先生は、「わたしの住む夜の世界に入らないこと。」だと言っていました。そのためには、家庭や学校での子どもたちの居場所をつくることだそうです。子どもたちの居場所を作るためには、子どもをしかってばかりいないで、子どもたちの立場に立ち、よいところを認めたり、ほめたりすることがとても大切であることを先生は具体的に説明してくれました。
 子どもに勉強させたいなら「勉強しろ。勉強しろ。」と言わないで、親自ら勉強をする姿を見せることだそうです。小学生だったら、自分から勉強しない場合は、そばについていてやり、身の回りの整理や翌日の学校の準備ができない子だったら、自分でできるようになるまで大人がいっしょにしてあげるということが必要なのだと思います。ネットに電話、夜の街。『夜回り先生』を求める声があまりに多なっています。『夜回り先生』だけに任せておくのではなく、わたしたちの子どもたちの心は、わたしたちで救っていかなくてはいけないと思います。そのために、日常生活の中で子どもたちのためにできることは、やっていきたいと思います。
 あるインタビューの中で、
「夜回りするとき。暴力団と向かい合うとき…。怖くはないのでしょうか。」
という質問に対して、水谷先生は
「怖くないですよ。怖がるならば、自分の生き方です。不正な生き方はしてないか。不純な生き方はしてないか。怖がるべきは、自分にウソをつくこと。子どもたちを裏切ること。それ以外、怖いことは何ひとつありません。 」
 水谷先生のようなことは、決してまねできることではありませんが、先生の生き方からたくさんのことを学んでいきたいと思います。