K君との別れ


 今日は、いよいよK君が転校する日です。K君は朝から落ち着かないようすでした。きっと転校する寂しさや不安などを感じていたのだと思います。でも、K君はふだんと同じように振舞おうとしているようでした。だから、わたしもいつものように接していました。

 2時間目の体育で跳び箱やマットを片付けているとき、体育館の器具室でK君と偶然2人になりました。すると、K君が寂しそうに
「先生、今日でお別れだね。」
と言いました。K君が寂しそうな表情を見せたのは、このときが初めてでした。

 5時間目は、K君のお別れ会をすることにしていました。昨日からK君の好きなことをやることになっていたのですが、K君は自分の意見は言わず、気を遣ってみんなにアンケートをとり、お別れ会でやることを決めていました。結果は、K君のあまり得意でないドッジボールに決まりました。

 最後の給食は、K君におかわりをたっぷりさせました。隣りの市の給食はまったくちがうので、この市で食べる給食は最後になってしまうからです。

 昼休み、最後にK君と遊ぼうと思って、校庭に行くと、K君はみんなと楽しそうに「はみ出し高オニ」という鬼ごっこをしていました。うれしそうなK君の顔を見ながら、5時間目のお別れ会はこんな雰囲気になればいいなとわたしは思っていました。

 5時間目、ドッジボールが始まると、算数のさやか先生に後はまかせて、わたしは、社会と理科と図工と体育の勉強でSUNSUN3組に来ている情緒教室のH君の学習発表会に顔を出しに行きました。

 H君の一生懸命発表する姿を見て、ドッジボールにもどってみると、自分のお別れ会だというのに、K君はなぜか遠くの方で一人座っていました。ドッジボールが終わり、一人の男の子がK君を呼びに行こうとすると、どういうわけかK君は逃げて行ってしまいます。わたしも追いかけましたが、ますます逃げ足が速くなり、追いつけません。

 仕方なく追いかけないで様子を見ようと思いました。職員室から校庭を見ていると、K君はもどって来ました。そこへ、クラスの優しい女の子がK君を迎えに行きました。K君はもう逃げませんでした。きっとK君はうれしかったのだと思います。

 教室にもどるとK君のお母さんが来ていました。K君はみんなにハンカチをプレゼントをしてくれました。最後のあいさつをしてもらおうとしましたが、照れてなかなかあいさつができません。やっと一言だけあいさつができ、最後のみんなで「赤いやねの家」を歌いました。K君は最後まで照れたままでした。K君はきっとさりげなくみんなと別れたかったのかもしれません。

 やさしく照れ屋なK君、新しい学校でもそのやさしさを忘れずに、みんなとなかよく、がんばって下さい。