悪徳旅行社
私は、旅行社に所属しているツアーコンダクターではなく、派遣会社からいくつかの旅行会社に派遣され、与えられたツアーの添乗を担当します。
私は先月、ある会社のものすごく頭にくるコースに行って、まだショックがさめていません。
エージェントはA社。コース名は、「巨匠モネの愛したフランスの風景と、モンサンミッシェル」。行き先は、パリ、モネの家、ルーアン、モンサンミッシェル。オプションでロワール古城めぐりやバルビゾン村ｅｔｃ。
コース内容を聞いたとき、さまざまな疑問が湧いてきました。募集パンフで確認すると、きれいな写真いっぱいのいかにも楽しそうな出来上がりです。
モネの家・・・ こうあったら誰でも、睡蓮の花咲く、あの浮世絵で飾られたあの家を思い浮かべるでしょう。そこはジベルニーという場所です。でも、冬季、ジベルニーはクローズです。パンフレットにはちゃんとヴェトゥイユのモネの家とありました。ここで、私は行き先がモネの家といっても、有名なほうの家ではなく、その二つ前に住んでいた、モネの辛い時期、3年間を過ごした家と気がつきます。ファンでない限り、お客様は、ジベルニーとヴェトゥイユ、この区別がつかないようです。でもパンフにはちゃんと、「この家を引っ越してから1年後にジベルニーに引っ越した。そこで花の庭を作り、睡蓮の池を作った。」とあります。ですから、読めば分かります。
でも、お客様は「騙された」「知らなかった」。パンフにも書いているし、大体、ガイドブックを読めば分かるでしょう。自分の行くところを何も調べないで海外旅行ですか。なにをしに行くのでしょう。
でももっと嫌なのはA社のやり方です。こういう、ものをよく考えない、調べない人を客層として、狙っているとしか思えません。
「どうせ知らないでしょう。どうせ何にも調べないでしょう。だったら、広告でうまく釣りましょう。値段しか見ない人たちなんだから、他より安くしましょう。でも、この人たちは一人では何もできない。食事は自由食にしましょう。一人で食べれないなら、オプションに参加してもらいましょう。仕方ないでしょう。自分たちだけで、食事ができないんだから。」
まるでこういっているような、えげつないやり方！！結局パンフをよく見ないと、安いツアーに参加したつもりが、とんでもなく高くなってしまいます。
添乗員側としては、「旅行会社もえげつないけれど、ちゃんとパンフレットも読まず、旅行代金だけでつられる方も悪い。サービスというのは払った分しか受けれないのだから、安いツアーに来て文句は言えない。」こう考えて割り切るしかありません。
最近、私が添乗するお客様はものすごくいい方ばかりです。すると、ますます辛くてたまらなくなります。皆さん口に出さなくても、「このツアーを選んだ自分が悪い」と背中で語っています。(ここで不満を口に出すのは知性がない人）たぶん二度とA社のツアーを選択しないでしょう。添乗員側としても、「こんな悪質なツアーでごめんなさい。次は5万、出来たら10万円プラスして、もっと質のいいコースに参加して下さい。貴方レベルの方がこんな最低なツアーに参加しちゃ駄目です。」と心の中で謝っています。
ところで、私がショックを受けたフランスのツアー内容の続きですか。モネの家はまあいいとして。モンサンミッシェルに2泊し、丸一日フリータイムがあります。さらに夕食はついていません。ここで問題が出てきます。モンサンミッシェルは、シーズンオフのため、ほとんどのレストランがクローズ。私たちは本土側のホテルでしたが、本土側6箇所のホテル中、4箇所のホテルが休業中。残り2箇所もレストランはクローズ。前の日にあちこちに電話をして、修道院の入り口にあるレストランの予約を取りました。そして、オプションとして販売しました。お客様全員が申し込みされました。担当者は一度下見に来ています。それなのにこのザマです。自由食に出来ないところで自由食！これでなに事故(食中毒など)が起こったら、添乗員の責任になるそうです。では何もしなければいいのでしょうか。
この他にももっと問があります。一日フリータイムがあるのですが、ホテルの周りはレストランが全て閉まっているので、歩いて修道院のある島まで行かなくてはなりません。でもホテルから往復五キロです・・・ホテルのある本土側からモンサンミッシェルを眺めるなどして時間をすごすのはあまりに時間の無駄。まさか丸一日そうしているわけにも行かないでしょうし。結局、オプションに参加しましょうかということになります。でもこのオプション、なんと25，800円もします。そして往復10時間バスに乗って観光の時間はほとんどありません。ロワール古城巡りは確かに楽しいです。でもモンサンミッシェルからでは無理です。それにヨーロッパでは労働規則が厳しく、ドライバーの労働時間は一日9時間までです。休憩を入れても最大12時間です。このオプションだと最低15時間かかります。バレなければなにをしてもいいのでしょうか。高いだけのこんなオプション、申し訳なくて売れません。でも参加しなかったら、その日一日パン1個買うのも難しいのです。
この問題だらけのオプションの翌日はモンサンミッシェル下車観光。ここで注意しなければならないのは下車観光という部分。下車ですよ、下車。入場しないのです。あの修道院の参道まで行って、午前中いっぱい時間があって。パンフレットには大きく「モンサンミッシェル」と謳っていて。あそこまで行って「下車」では通用しません。「入場」しなければ。そして「入場」したからには「説明」し、「誘導」しなければ。打ち合わせにいくら行っても担当者(25歳の新人）は理解しません。仕方ないです。素人なのですから。結局、チケット個人払いで入場し、私が説明しました。でもモンサンミッシェルは国立博物館です。国立博物館で説明できるのはガイドだけです。よく間違えられますが、添乗員とガイドはまったく業務は別です。運良く捕まりませんでしたが、もうこんなツアーたくさんです。本当にお客様に申し訳なくてたまりませんでした。
この後、他の町でお昼を食べ(もちろん別料金）、パリに入りました。自由食でもパリならどうにでもなります。ホテルにもレストランがありましたが、希望者とメトロで街中まで出て行き、中華を食べ、タクシーで戻りました。メトロにも久しぶりに乗りましたが、ますます雰囲気悪くなっていて、本当に怖かったです。パリは五人に一人が移民とのことですが、それ以上にもかんじました。地元のフランス人はパリがあまりにも治安が悪化したので、郊外に移っているそうです。確かにあれでは住むのは嫌です。
このツアーは大変だった割には本当に報われませんでした。お客様の参加を後悔している様子が何よりショックです。アンケートもイマイチですし。(私たちはアンケートの数字でしか判断されません。）こんなにやっていてむなしいことはありません。
お客様に言いたいです。
こんな悪質なツアーに引っかかっちゃダメです！！
ちゃんと、パンフレットを読んで。
そして一度ガイドブックと照らし合わせて。
安いツアーがとんでもなく高くつく事だってよくありますよ！
いいホテルに泊まりたい。
おいしいものが食べたい。
ゆっくり、少人数で旅行したい。
そんな希望があったら、ある程度の金額は出さないと。
サービスは払った分しか受けれません。
安く、得しようなんてそんないい話、あるわけないでしょう。
たいていの方がせいぜい年に1回の海外旅行でしょう。
せっかくの機会、もっと生かさないと！！
今回ツアーレポートというよりはA社に対する不満ばっかりですね。
でも次回は「チップ」と「バイキング」についてレポートします。
