10 さよなら モン・サン・ミッシェル

サクレクール寺院


 2000年12月29日夕方。歩く歩道のチューブが空中で交差する円形の近未来的なシャルル・ド・ゴール空港。わたしは、搭乗手続きをするためにターミナル1のロビーで待っていました。近くにはいろいろなお店がならんでいます。わたしは、フランスに来た記念になにかフランスらしいものを買って帰ろうと思い、いくつかの店に入りました。

 その中で一番目に入ったのが、2000年の記念のシャンソンのCDでした。わたしは、ミレニアムの年の最後から数えて3日目にフランスでしか買えないCDを買うことは、とても記念になると思い、そのCDを持ってレジのところへ向かいました。
「エクスキュゼ モワ。(すみません。)」
とわたしが言うと、体格のいい男性の店員がこちらを向きました。そして、彼はおこったような表情でフランス語でしきりに何かを言っていました。わたしは、何を言っているのかわからず、ずっと困った顔をしてだまっていました。すると、彼は、英語で
「チケット。」
と言いました。彼は、搭乗券を見せるように言っていたのでした。わたしは、とても気分がわるかったけれど、すぐに搭乗券を出して見せました。その店員の対応はとても失礼でした。この時がフランス人と話すのが最後でしたが、フランス人はプライドが高く、英語を知っていてもフランス語で通すという話は、本当のことではないかと感じました。そして、わたしはCDを受け取るとその店を出て、他の店に入りました。そこは、食料品の店。たくさんのおみやげがならんでいます。わたしは、その中にエスカルゴのかんづめを見つけ、それを買うことにしました。今となっては思い出のアフリカ料理のレストラン、シェ・バブのエスカルゴのディナー。もう一度日本に帰ってから、エスカルゴを味わってみたかったのです。

 いよいよ飛行機への搭乗時間が近づいてきました。わたしは、最後のおみやげを手に持ち、動く歩道に乗って搭乗口へ向かいました。ロビーは、同じ飛行機に乗る乗客でごったがえしていました。主に、フランスのツアーを終えて日本へ帰る日本人旅行客で、あとは日本へ向かうフランス人の乗客です。搭乗ゲートが開かれ、わたしは飛行機の中へ向かい自分の座席を見つけて座り、シートベルトをしめました。

 2000年12月29日18時30分。全日空 206便は、シャルル・ド・ゴール空港の滑走路を離陸し始めました。そして、わたしのフランスでの思い出を乗せて、飛び立って行きました。

 さようなら、フランス!
 さようなら、モン・サン・ミッシェル

(終わり)