1 思わぬフランス行き

モン・サン・ミッシェル

 2000年12月24日夜。美しく輝くエッフェル塔の2000年を記念したイルミネーションが、ビルの間から見え隠れしています。わたしは、シャルル=ドゴール空港からパリ郊外のホテルに向かうバスの中にいました。
 一度も行きたいと思うことがなかったフランスへの取材旅行。フランスへの道は、今から約8ヶ月前から始まっていました。

 2000年4月の新学期。わたしは、この記念すべきミレニアムの年に、なんと小学校の最後の学年である6年の担任をすることになりました。身に余る光栄というか、肩にのしかかる重圧というか、予想外の展開にたいへん戸惑っている状態でした。でも、この20世紀から21世紀にまたがる貴重な年に6年の担任ができることを幸せに思い、何かよい思い出に残るものを創ることにしました。それが、学級通信『ぼくらのヒストリー』でした。

 ☆☆歴史から学び、歴史を作る☆☆

 待ちに待った桜も咲き、いよいよ今日から新学期が始まりました。新6年4組のみなさん、進級おめでとうございます。
 6年と言えば、社会で「日本の歴史」を勉強します。日本の歴史の中には、今までの日本の人々が作り上げてきたすばらしい文化や伝統があります。そして、日本人がおかしてしまったたくさんの過ちがあります。それらを学ぶことにより、わたしたちは歴史からたくさんのことを吸収できると思います。そして、これから20世紀の残りの9ヶ月と21世紀の最初の3ヶ月の歴史を自分たちで作り上げていきましょう。そんな思いを込めて、学級通信を『ぼくらのヒストリー(歴史)』と名付けました。この1年でわたしたちはどんな歴史を作れるか、とても楽しみにしています。
 さあ、IT小6年4組のみなさんは、今日から5500年前の昔から2001年の未来への時間旅行に出かけます。旅行期間は、ちょうど1年。みんな迷子にならないように最後までしっかりとついて来て下さい。みなさんのおともをさせていただきます、ツアーコンダクターのNORIです。小学校最後の1年間、どうぞよろしくお願いします。

『ぼくらのヒストリー 4月10日 1号より』

 と、このように6年4組の学級通信『ぼくらのヒストリー』の創刊号の原稿が、始業式前日にでき上がりました。けれども、よく見ると文字ばかりで、何か物足りない原稿になっています。タイトルのところに今年の学級通信のトレードマークになるようなイラストでもあるといいと思いながら、わたしは、アイデアを考え始めました。しかし、夜になっても、「ヒストリー」にふさわしいようなイラストは、思い浮かびませんでした。

 結局、その日は寝てしまい、とうとう1学期の始業式当日の朝になってしまいました。早めに起きて、出勤の準備をしていると、ある旅行会社の海外旅行のパンフレットが目に入りました。そこには、ヨーロッパのいくつかの場所のスケッチが描かれてありました。突然、とても小さく描かれている山のような形をした絵が、ぱっとわたしの目に止まりました。「とりあえずこれをはっておこう。またいいイラストがあったら考えよう。」と思い、島のようでもあり、山のようでもあるそのスケッチ画を今日のところは採用することに決めました。そして、コピーをして、学級通信のタイトルの横にはりました。

 そのスケッチは、後になってよく見てみると、フランスの世界遺産に登録されている『モン・サン・ミッシェル』という修道院であるということがわかりました。しかし、それは、いいイラストが見つかるまでの仮に採用されたスケッチです。もっとこの学級通信にふさわしいイラストが考案されたら、もう使われることはなくなる絵です。

 ところが、いつになってもいいイラストは考えられず、毎日毎日6年4組の学級通信に、この『世界遺産 モン・サン・ミッシェル』が使われるようになりました。そして、わたしは、この『モン・サン・ミッシェル』を何度も見ているうちに、とても親しみを持つようになっていました。わたしはいつしかこのスケッチをずっと使おうと、心に決めていました。 こうして、2000年の秋が過ぎるころには、「一度でいいから、モン・サン・ミッシェルへ学級通信の取材に行きたい。」と、強く思うようになっていました。

 そんなふうに思っていると、11月のある日の新聞に『モン・サン・ミッシェル』へのツアーが発表されているではありませんか。料金は、取材費用が乏しいわたしにも手が届きそうな安さです。わたしは、迷わずツアーへの参加を決め、その日のうちに電話で申し込みました。

 そして、2000年12月24日。キリスト生誕2000年目の前日に、成田発パリ行きの全日空205便に気軽に飛び乗って、その約12時間後にフランスに到着しました。こうして、今、美しいミレニアムのエッフェル塔のイルミネーションをバスの窓から見ているのでした。

(『トゥールのクリスマス』につづく)