1 時差


 2000年1月3日(月)、午前11時25分。オーストリア航空556便は、成田空港からウィーンのシュベヒャート空港に向けて飛び立ちました。日本から日本海を北上し、シベリアからモスクワ上空を飛行し、ウィーンに到着する経路です。つまり、太陽の動きと同じ方向に向かって進んで行くのです。ですから、いつになっても空は明るく、ウィーンに着くまで、夜は来ないのです。飛行機の窓から下を見ると、シベリアの白く凍りついた大地が、いつまでも続いています。飛行機が出発して6時間くらいたった後、大地の中に大きく蛇行する大河が見えてきました。アジア一長い川、オビ川(5200km)です。川岸の外側をけずり、内側に土砂がたまる。それが何度も繰り返されてきて、蛇のようにグニャグニャと曲がりくねっていく様子が、空からよく分かりました。そして、行けども行けども、シベリアの氷の大地は続いています。

 成田を飛び立って8時間以上たった後、ヨーロッパとアジアを分けるウラル山脈が見えてきました。いよいよヨーロッパ大陸に突入。ここからは、少しずつ大きな町が現れてきました。ロシアの首都モスクワの北を通り、ベラルーシポーランドの上空を通過して、やっとウィーンに着きました。

問題1
 成田空港を出発したのは、1月3日の午前11時25分です。飛行機に12時間乗ってウィーンに着いた時、現地時間は1月3日の3時25分でした。日本とウィーンの時差は、何時間でしょう。

 答えは、8時間です。(12時間も飛行機に乗ったのに、出発時間と到着時間には4時間の差しかありません。実は、ウィーンに到着したとき、日本時間は午後11時25分でした。だから、11時25分−3時25分=8時間です。)

 そして、ぼくは、この時差にずっと悩まされることになってしまいました。ウィーンの空港に到着してから、バスに4時間揺られて、ブダペストのホテルに到着したのは、現地時間の午後7時45分(日本時間・4日の午前3時45分)です。日本にいたら、ぐっすりと眠っている時間なのに、夕食を食べたり、荷物の整理をしたり、入浴したりしなくてはなりません。やっとベッドに入れたのは、午後11時(日本時間・4日の午前7時)。つまり、1月3日の日は、1日が24時間より8時間多い32時間になってしまいました。おまけに、飛行機の中では、映画『マトリックス』2回と他の映画を1回見てしまったので、ほとんど寝ていませんでした。

 ベッドに入るとすぐに眠れたのですが、今度は、体が日本時間に慣れているため、1時間たった12時(日本時間・午前8時)にパッチリ目が覚めてしまうのです。こうして、ウトウトしながら、ベッドの中で現地の朝を迎えるのです。そして、ブダペストやウィーンの街を見学していると、突然午後の2時(日本時間・午後10時)ごろ、眠気が襲ってくるのです。しかし、昼間から寝るわけにもいかず、夜の10時(日本時間・午前6時)まで起きていて、また、2時間くらいすると目をパッチリ覚ます日々がしばらく続きました。いわゆる「時差ボケ」に陥ってしまったのです。

 みなさん、飛行機の中でおもしろい映画があっても見ないで、とにかく寝ましょう。

(「国境を越える」につづく)