2 国境を越える

 国境とは、字の通り国と国との境目のことです。日本は海に囲まれているので、海を渡ると国境を越えたことになります。日本から国境を越えるには、成田空港でパスポートを見せ、出国審査を受け、スタンプを押してもらってから飛行機に乗ります。ウィーンのシュヴェヒャート空港に下り立つと、今度は入国審査を受けます。また、パスポートを見せて、顔とパスポートの写真を見比べられ、悪いことをしに来たのではないことがわかると、スタンプを押してもらって、空港からオーストリアの国に入ることができます。こうして、日本から外国に行くときは、なんとなく国境を越えてしまうのです。

 ところが、ヨーロッパは地続きなので、目に見える国境をバスで越えるのです。ぼくたちは、この旅行中、オーストリアハンガリーの国境とオーストリアチェコの国境を、それぞれ2回ずつ越えました。

 ウィーンからブダペストに向かうとき、ぼくは、生まれて初めて地続きの国境を越えることになりました。ぼくは、どんなふうに国境を越えるのか、とても楽しみでした。国境には鉄条網の柵があって、通行するところには頑丈な扉があるのだろうか。そして、バスから全員降ろされて、パスポートを見せ、厳しい所持品のチェックを受け、歩いて国境を越えるのだろうか。兵士の物々しい警戒の中、緊張しながら検査を受けるのだろうか。ぼくは、いろいろなことを想像し、楽しみにしながら国境へ向かいました。

「それでは、国境に着きました。」
 ツアーコンダクターのGOTOHさんが、教えてくれました。そして、オーストリアの女性の係員が、バスに乗り込んできて、一人一人のパスポートを見ながら、オーストリア出国のスタンプを押してくれました。全員が終わるまでに、あまり時間がかかりませんでした。

 そして、運転手さんが少しバスを進めると、今度はハンガリーの入国管理所がありました。次はどうするのだろうと思っていると、GOTOHさんが、
「今日のハンガリーの入国管理官は、やる気がないようです。このまま通っていいそうなので、出発します。」
と、言いました。ぼくは、あまりの簡単さにがっかりしました。入国のスタンプを押してくれるどころか、パスポートも見ないのです。GOTOHさんの話によると、ここの入国管理官は、人によって仕事のやり方が違うのだそうです。とてもていねいなときは、全員のパスポートを預かって、一人一人データをコンピューターに打ち込むので、国境を越えるのに1時間ぐらいかかるそうです。また、今日のようにやる気のないときは、何も見ないでそのまま通過できるのです。1時間もかかるのは困るけれど、せめてパスポートに入国のスタンプぐらい押してくれてもいいのではないかと思いました。これでは、まるで高速道路の料金所を通過するのと同じです。でも、10年前にくらべ、それだけヨーロッパの国々の人々の行き来が自由になったのだと思いました。

(「両替する」につづく)