はじめに

 1999年8月。自宅の近くの図書館に行ったら、『東欧見聞録―民主化の嵐のあとで(佐藤 健・毎日新聞社)』という本を見つけました。ぼくは、その本のタイトルにひかれ、すぐに読み始めました。


 それは、戦後40年間、世界を真っ二つに分けていた一方の陣営である共産主義社会が音を立てて崩れてしまったその現場を見たくなった作者の旅の記録でした。民主化直後の東欧諸国の旅先で出会った人々の様子や突然のハプニングなどがリアルに書いてありました。ぼくは、その内容に入り込み、作者といっしょに旅をしているような気になりました。同じ東欧の国でも、民主化の進みぐあいはちがっていて、今までひとまとめにしていたそれぞれの国の特徴が、ぼくにもわかるようになってきました。また、今まで遠く感じていた東欧諸国が、とても身近に感じられるようになり、すぐにでも行ってみたいと思いました。

 1999年11月。チャンスはすぐにやってきました。新聞に載った東ヨーロッパへの超格安ツアー。民主化から10年。ぼくは、『東欧見聞録』から後の東ヨーロッパは、どのように変わったかを取材するために、迷わずそのツアーに申し込みました。そして、コンピュータの2000年問題で世界が揺れる中、1月3日から10日まで、ブダペスト、ウィーン、プラハを巡る旅に出発しました。

 この旅行記では、自分自身で体験したことや考えたことなど、2000年の東ヨーロッパから報告したいと思います。

(「時差」につづく)