ロシア人のイメージ
ぼくは、ロシア人には申し訳ないけれど、彼らに対してあまりいいイメージを持っていなかった。ロシア人と会ったこともなければ、話したこともないので何とも言えないが、なんとなく冷たそうな感じがしていた。また、怖いというイメージもあった。
ブルームの二人が街角で途方に暮れているとき、何度となく声をかけてくれるロシアの人々の姿があった。彼らは、その度に救われた。食事をごちそうしてくれる人、泊めてくれる人、また、ピクニックに連れて行ってくれたり、彼らのコンサートを開いてくれたりする人もいた。
彼らは、そうやって親切にしてくれるロシアの人々のために仕事を手伝ったり、お礼の歌を作ってあげたりして、ロシアの家族たちに感謝の気持ちを伝えた。
そんな場面を見ていると、ぼくには、ロシア人は冷たくもこわくもない。ぼくたち日本人と変わらない気持ちを持っている、いや、それ以上に心の温かさを持っているのだと思わずにはいられなかった。
そして、ブルームの二人とお世話になったロシアの人々とのつらい別れの場面は、本当に人間どうしの心の交流があったことを、ぼくに伝えてくれた。
話は『ラスト・ツアー』から離れるが、ブルームの二人が、まだ旅の半分も終わっていない8月のある日、ぼくは、横浜アリーナで行われる松任谷由実の『シャングリラ』というコンサートを見る機会に恵まれた。
このステージは、松任谷由実とロシアのシンクロナイズドスイミングチームとサーカス団との共演によるもので、構想に何年もの時間をかけて実現したものだった。
この日のユーミンは、いつものコンサートと変わりはなかったけれど、曲に合わせて舞うシンクロの美しさや空中ブランコの力強さは、夢の中にでもいるようなすばらしさだった。これらの演技をユーミンが引き立てているようにも思えた。
いつもテレビを通してしか見られなかったロシアだったけれど、この時は、ロシアの伝統の美と技に、直接ふれられることができて、ロシアの旅がよりいっそう身近なものに感じられる思いがした。そして、ロシア人に対する親しみや尊敬の念が、これまで以上に深まるきっかけとなったと思う。
(『運命の一曲』につづく)