人間になれない子どもたち 1
- 作者: 清川輝基
- 出版社/メーカー: 〓出版社
- 発売日: 2003/03/01
- メディア: 単行本
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それでは、今日から3日間、その講演会の内容を紹介したいと思います。
この半世紀の間に、日本の子どもたちにどんな変化が起きているのか。そして、子どものからだや心を育む発達環境の何がどう変わったのかをお話したい。
<低下するからだの発達>
文部省は、1964年から子どもたちの体力テストを実施してきている。毎年、低下の一途をたどる体力の中で、特に問題になったのが「背筋力」であった。そして、不思議なことに文部省は、1977年度を最後に調査項目から背筋力をはずしてしまった。その理由は、驚くなかれ、「背筋力調査をすると腰を痛める子が、続出する」から、というのである。つまり、調査によって腰を痛めるほど背筋力が、低いレベルの子が、多くなったということだ。1977年度のデータによれば、14歳女子の背筋力指数(背筋力を体重で割ったもの)は、1.4であった。17歳女子でも1.5に達していない。赤ちゃんを抱いたりおんぶしたり、いわゆる子育てに必要な背筋力は、体重の1.5倍(背筋力指数1.5)といわれている。すなわち、少なくとも半分の女子中高生が、子育ても危ういレベルにしか育っていないということである。男子の落ち込みは、更に深刻である。文部省調査によると、高校3年生の背筋力指数は、30年前の6年生とほぼ同じレベルまで低下。小学6年生のそれは、34年前の小学6年生女子のレベルをも下回ってしまった。
史上最悪のデータを示しているのは背筋力だけではない。たとえば、子どもたちの視力だ。裸眼視力「1.0未満」の割合が、1970年代半ばから急激に増えはじめた。現在、15歳児の63%、ほぼ三分の二が視力「1.0未満」という状況である。このような国は、ない。さらに、人間が生きていくための基本的な機能である血圧調節機能など、自律神経の働きにも異常が見られるようになってきている。<こころの発達に問題>
子どもたちのからだの発達が危機的状況となるのに平行して、心や人格の発達に問題があるのではないか、と思われる現象や事件が、増えはじめている。学校に行かない、行けないという「不登校」の子どもは、年々増加し小中学生合わせて13万9千人となった(2001年度)。38人に1人が、不登校という計算になる。
一方で、学級崩壊やキレる子現象が、90年代後半から地域を問わず日常的に見られるようになってきた。また、子どもによる凶悪犯罪も増加している。「人を殺す体験をしてみたい」となんの関係もない女性を本当に殺した17歳の少年。「人が壊れるのを見てみたい」と人混みの店に手作り爆弾を投げ込んだ17歳の少年。広島平和公園の千羽鶴を焼き払った大学生もいた。大学に学ぶと言うことと心の成長とは、別物なのである。
からだの場合と違って、心や人格の発達・成熟が、どのくらい遅れたり歪んだりしているかを数値化することは、きわめて難しい。しかし、現在の子どもの心の育ち方や人格の発達もからだ同様に史上最悪の危機的状況にあると私には、思えるのである。<変化は、いつから>
では、いつからその変化は、始まったのだろうか。子どもの視力が、急激に悪化し始めたのは70年代前半だった。中学校で「不登校」が増えはじめて、その人数が病気などによる長期欠席者を上回ったのが1979年だ。一方、背筋力は、調査を始めた1964年から一貫して低下し続けている。どうやら、子どもたちに変化が、起こりはじめたのは1960年代ということができる。そして、70年代になると体や心に明らかな異変や異常が見られるようになり、その「異変第一世代」が、子育てを始めた90年代には、子どもの発達のゆがみや遅れが一層加速し、質的にもより重大なものになってきたと考えられる。
60年代とは、どういう時代であったのか。高度経済成長が始まり、我々日本人は、ひたすら豊かさを求め、快適で便利で安全な暮らしを目指した。モータリゼーションと核家族化が進み、テレビが普及し、それまでの伝統的な生活スタイルが劇的に変化した時代だった。(つづく)