スペイン語との出会い

 ある年の4月から、わたしは、南米の日系人の人たちと接しなくてはならない部署に配属されました。だから、ポルトガル語スペイン語は、どうしても必要となりました。そこで、勤務時間内に週一回、スペイン語の研修に参加することができました。
 スペイン語研修は、期間が1年。研修生は6人だけの少人数で、スペイン語を勉強するのには、たいへんよい環境でした。先生は、スペインに留学していた日本人の女の先生で、分かりやすくていねいに教えてくれたので、とてもよく理解できました。
 スペイン語の発音は、大体ローマ字読みで、rの巻き舌音以外は比較的日本人には発音しやすい言語です。ラテン系の言葉なので、動詞の活用は6つありましたが、慣れてくると、あまり抵抗を感じませんでした。
 この時期は、スペイン語に夢中になり、NHK教育テレビのスペイン語講座もよくビデオに録画して、楽しんでいました。日本人に向いている言葉だと思いました。
 それだけでなく、生のスペイン語に触れる機会にも恵まれ、ますますスペイン語には親しみを感じることができました。その年の冬に、わたしはある病気の治療のため、病院に入院することになりました。わたしが入院したのは6人部屋。その中に日系ペルー人の方が入院していたのです。彼は、あまり日本語は話せませんでした。
 わたしは、生のスペイン語を勉強するチャンスだと思って、他の同室の患者は誰一人話しかけない彼に話しかけてみました。それから、彼とは日本語とスペイン語を互いに教えあうようになりました。
 わたしは、入院するのに多分時間がたくさんあると思っていたので、病室でスペイン語を勉強しようと思って、ラジオとNHKのスペイン語講座のテキストを持っていってありました。朝、ラジオでスペイン語の勉強をしたあと、朝食後、ペルーの方のベッドのところへ行き、朝習ったスペイン語講座のダイヤログを日本語にして教えるという形です。この方法だと、お互いにスペイン語と日本語が同時に勉強できました。スペイン語講座の復習にもなり、スペイン語会話の実地練習にもなり、たいへんよかったです。
 わたしは、彼よりも早く退院してしまいましたが、その後、毎日通院していたので、彼のところには時々顔を出してみました。お互い会えるのを楽しみにしていました。彼が、退院してからも一度、ペルー料理のレストランにつれていってもらって本場の料理を食べることができました。その後、彼の病気の治療が続いていたようですが、不幸にも会社を解雇され、消息不明になってしまいました。
 1年間のスペイン語研修とペルー人の友人とのつきあいを通じてスペイン語が大好きになってしまったわたしは、その次の年、仕事で知り合った別の日系ペルー人の方にボランティアで、日本語を教えることになりました。スペイン語圏の人が使う日本語のテキストを使ったので、スペイン語を勉強するのには、とても役に立ちました。